共同通信系メディアのNNAにて、「経済ニュースから見るASEAN」新規連載開始
弊社代表杉田浩一による、新規コラムを開始しました。海外現地情報を掲載する共同通信系メディアのNNAにおいて、WEB特集「経済ニュースから見るASEAN」として月に2回記事を配信いたします。東南アジア諸国連合(ASEAN)で事業展開あるいは同地域に進出する際のヒントとなる情報をNNAのニュースを元に提供します。
第1回のNNAの掲載記事【ASEAN】不動産開発・建機業界から見るタイプラスワンはこちら。
<掲載内容の抜粋>
■新コラムのご案内とその特徴
今回新たに始まる「経済ニュースから見るASEAN」は、まさにNNAのアセアン各国の記事から、興味深い内容を切り出して、その記事から見えてくるアセアン各国の情景や、業界の動向、変化の流れなどを深読みするコラムだ。
このコラムにおいては、特に2つの点についてNNAのニュースを深堀りしていきたい。
1点目は、NNAのニュースで取り上げられる内容について、ASEANの事業現場におけるリスク対応、海外新規進出における勘所のほか、買収・合併(M&A)、海外進出や事業展開の視点からどのような意味があるのかを記載することだ。
2点目は、各国の状況について横断的に見ることだ。個々のニュースではどうしてもその国の記事のみで終わってしまい、ASEAN域内における相対的な位置づけが見えてこない。このコラムでは、そうした記事に横串を刺すイメージで現地の状況について考えていきたい。
さて今回は、まさにその国を横断的に見る点、特に「タイプラスワン」としてのミャンマーとカンボジアの比較から、複数回に分けて考えてみたいと思う。初回は、カンボジアの現況に迫りたい。
■タイプラスワンの候補はカンボジアかミャンマーか?
ASEANで日系業が最も集積しているタイだが、現地の人件費の上昇などの影響を受け、周辺国に一部工場を分散したり、周辺国へさらなる進出を行う、タイプラスワンといわれる動きが進んでいる。
そうした中で候補に挙がるのが、タイの周辺に位置するカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムといった国々だ。中でも、カンボジアやミャンマーは、ASEAN域内における賃料水準が最も低い国々であることから、とりわけ比較で取り上げられやすい。それでは、カンボジアとミャンマーでは、どちらがタイプラスワンの進出先として好ましいのだろうか。
今回は、マクロ経済環境や不動産開発、建設機械市場の現況を見ながら、両国を比較していきたい。そもそも比較の軸として、マクロ経済環境はともかく、なぜ不動産開発や建機市場なのか。カンボジアもミャンマーも、発展途上国においては総じてインフラの整備が遅れているため、土木関連の建設工事はそれぞれの国における重要な産業基盤となっている。両国ともにコンドミニアムやオフィスビルなどの建設工事も主要都市で進められており、双方にとって主要な業種だからだ。加えて、こうしたインフラ整備は、製造業をはじめそれ以外の業種を呼び込む意味からも極めて重要だ。
■経済の好調が続くカンボジア
NNA記事「【カンボジア経済通信】IMF、マクロ経済の好調を評価 第300回」(2016年11月18日付)によると、国際通貨基金(IMF)はカンボジアとの政策協議で同国経済の先行き見込みについて前向きな評価を下した。「カンボジア経済のエンジンである縫製品輸出は好調が続き、不動産・建設セクターも伸びは鈍化するが順調。16年の経済成長率は7.0%、17年は6.9%と予測。それ以降も21年まで6.3%~6.8%の高度成長が続く」という。
そうした中でも、インフラ整備や不動産関連は同国において重要な位置づけを占めている。カンボジアの15年度のGDP全体において、建設業の占める割合は11.1%、不動産の占める割合は6.2%で、鉱業の1.0%を加えると、この3つの建機に関する業界合計で18.3%を占めている。
実際、NNA記事「建設投資額、1~7月は8.2倍」(8月24日付)によると、カンボジアの建設投資案件金額は今年の1~7月は前年同期比で8.2倍、総額71億800万米ドル(約7,100億円)に上っている。同記事によると、「1~7月の建設業への投資案件は1,500件となり、前年同期から38.5%増加。総面積も4.1倍の1,100万平方メートルだった。建設業は近年、経済成長のけん引役になりつつある」とある。
現地でこうした建設ラッシュについて見ているなかで、ミャンマーとの比較の観点からは大きく3つのキーワードが重要であることが見えてくる。1点目は、「南部経済回廊」をはじめとしたベトナムの関係、2点目は中国からの資金の流入、3点目は通貨とインフレーションだ。
■ポイント1:南部回廊とベトナムとの関係
カンボジアは、インドシナ半島の主要都市を結ぶ南部経済回廊上にあり、タイのバンコクと、ベトナムのホーチミンシティという域内の2大経済拠点に挟まれている。南部経済回廊は着々と整備が進み、特に昨年4月にはメコン川を挟む「つばさ橋」が完成し、カンボジアとベトナムの国境が陸路でつながった。
■ポイント2:継続する中国からの資金流入
勢いづくインフラ整備の背景には、中国からの資金の流入も見て取れる。NNA記事「中国、道路・橋建設に20億ドル融資」(10月18日付)によると、「中国はカンボジアで資金協力を加速させている。橋建設6件に総事業費2億米ドルを融資しているほか、7件目の案件として、首都プノンペンのトンレサップ川に架かる橋の建設が進んでいる。事業費は2,000万米ドルで年内に完成する見通し。道路建設20件(同約10億米ドル)にも資金協力している」との記載がある。
■ポイント3:通貨とインフレーション
プノンペンを訪れたことのある人であれば、そこでの通貨は実質的には米ドルであることを知っているだろう。NNA記事「【カンボジア経済通信】通貨リエルの流動性を強化」(10月14日付)によれば、「市中現金の8割以上が米ドル、預金の9割以上が米ドル建てとなっており、現地通貨のリエルは少額取引(お釣りなど)や、地方での取引に使用されるだけになっている」とある。
さて、こうして見てきた点について、ミャンマーではどうなっているのだろうか。次回は、ミャンマーにおける状況を見た上で、両国のタイプラスワンとしての事業環境について比較していきたい。(杉田浩一・株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役)